「箱長の工場に眠る数百枚の物語」

先日、お客様からこんなご相談をいただきました。

「この柄が気に入ったのですが、もう少し淡い色合いはありませんか?」

箱長では、こうしたご要望をいただくことがよくあります。

桐製品に木目込みを施す箱長の商品は、着物地によって表情が大きく変わります。同じ柄でも、色が変わるだけで雰囲気はまるで別のものになるのです。

そのため、お客様の好みに合わせて、

「もう少し明るく」
「もう少し落ち着いた色で」
「お部屋の雰囲気に合わせたい」

など、一人ひとりのご要望にお応えしています。

中には、ご自宅に大切に保管していた着物を持ち込まれるお客様もいらっしゃいます。

お母様やお祖母様が大切にしていた着物。

思い出の詰まった着物が、箱長の職人の手によって新たな形に生まれ変わるのです。

まさに世界に一つだけの逸品です。

しかし、こうしたご要望にお応えできるのは、実は当たり前のことではありません。

箱長の工場には、長い年月をかけて集められた数百種類もの着物地があります。

五年や十年で集められる量ではありません。

明治七年の創業以来、代々受け継がれ、先代たちが大切に残してきた財産なのです。

新しい着物地を見つければ仕入れ、良いものがあれば保管し、いつか誰かのお役に立つ日を信じて守り続けてきました。

私は工場で着物地の棚を見るたびに思います。

「これは先代たちからの贈り物だな」と。

もし先代たちが残してくれていなければ、今のお客様の細かなご要望にお応えすることはできません。

歴史とは、ただ古いということではありません。

長い年月の中で積み重ねてきた経験や技術、そして想いの積み重ねです。

箱長が今日もお客様の「こんな色が欲しい」という声にお応えできるのは、150年以上にわたり受け継がれてきた歴史のおかげです。

改めて先代に感謝しながら、これからもお客様だけの特別な一品を作り続けていきたいと思います。